名店中華の上海チキンについて
通ってしまうお店の条件はなんだろう。
コンテンツ業界にいるので、職業柄、自分が触れる情報を常に更新していたくて、なるべくならご飯は毎回別の場所で食べたいと思うのだけれど、それでもどうしても、通ってしまうお店がある。
そのひとつが大塚の名店中華、上海チキンだ。
正直、店舗の佇まいは入りやすいとは言い難い。路地というほどでもないけど、人がよく歩く道から一本入ったところにある。そしてギンギラの縁取りに装飾された、アングラ雰囲気丸出しの店構え。
初めて入ろうとするときは、すこし勇気がいる。
店内に入っても予想した雰囲気は裏切られることはない。
真っ赤なテーブルに少し固めの椅子。吊られた鶏肉。白い小皿に黒い長めの箸。いかにも中華だ。
しかしアンディ・ウォーホルのマリリン・モンローをパロディした毛沢東の肖像画が壁に並んでいたりもして、そのスタンスは掴みどころがない。
メニューを開くと驚くはずだ。
全ページ、墨の手書き(に見える)。1ページにつき一品。Q数200くらいありそうな文字だけで書かれている。「担々麺」「空芯菜」「麻婆豆腐」などなど、オーソドックスな中華料理が見たことのない大胆さで並ぶ。
写真など一切ないので、注文は出たとこ勝負だが、それで間違いが起こったことは一度もない。すべての品が美味い。
特に冬季限定の牡蠣入り麻婆豆腐は必ず注文したほうがいい。
通常の麻婆豆腐ももちろん極上なのだが、プリプリ大ぶりの牡蠣のエキスが加わり、これが天上の味となる。この香りを嗅ぐと、たとえ満腹でも大盛りご飯を注文したくなる。
でも絶対忘れてはならないのが担々麺。
唐辛子の辛味とゴマの甘みが、完璧に配合されており、完成された一杯だ。
単体でももちろんよいのだが、このスープをご飯にかけると化学反応が起きる。自分はどんなに体調が悪かったとしても、この担々麺スープかけご飯を丼でかき込む自信がある。正直、来店するたびにこの担々麺をスープだけで販売してほしいと思う。
大盛りご飯、麻婆豆腐、担々麺。これに杏仁豆腐を加えるのが来店時の基本だ。
これをいつもやるせいで、僕は上海チキンのメニューの開拓がさっぱりできない。
ちなみに店名になっているが、上海チキンは食べなくてもいいと思う。これは他でもたべられる味だ。鶏がよほど好きなら、とりあえず半身で頼むといい。
つらつらと飯のことを書いてしまったけれど、しかし僕がこの名店に通ってしまう理由は別のところにあると自己分析している。
それは心地よいホスピタリティだ。
元気のいい挨拶と笑顔。
鞄をおくところに迷っていたら、スッと椅子を差し出してくれたり。
「いつもの」で麻婆豆腐を出してくれたり。
かと思うと、注文をほっといて同じフロアでまかないを食べていたり。
ピシッとしすぎてはいないけれど、締めるところは締めているというか。人が喜ぶポイントを押さえている。それで料理が美味いのだから、もう通うしかないだろう。